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- 公立大学法人福島県立医科大学 消化管外科学講座
〒960-1295 福島県福島市光が丘1
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食道は細長い管状の臓器です。喉から腹部まで存在し、周囲には肺・気管・胸部大動脈・心臓・脊椎など様々な臓器に囲まれています。食道癌はこの食道に発生する悪性腫瘍です。食道癌は放置すれば、大きくなり周囲の臓器に浸潤したり(癌細胞が次第に周囲の内臓に入り込み、拡大していくこと)、リンパ節や肺・肝臓などの臓器に転移したり(がん細胞が最初に発生した場所から、血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器や器官へ移動し、そこで増えること)することにより最終的には生命に危険を及ぼします。
食道癌は発生した部位により頸部食道癌、胸部食道癌、腹部食道癌に分けられますが、胸部食道癌が80%以上を占めます。
食道癌の治療は 「内視鏡的治療」、「手術療法」、「化学療法(抗がん剤治療)」、「放射線療法」に大別され、時にはこれらを組み合わせて治療が行われることもあります。内視鏡的治療は消化器内科医、手術療法は外科医、放射線療法は放射線治療科医によって行われます。このように聞くと、どの科を受診するかによって治療方針が変わってしまうとお思いになられる方もおられると思いますが、当院ではCancer Board(内科医、外科医、放射線科医、腫瘍内科医による、患者様の状態把握および治療方針を決定するためのカンファレンス)を定期的に開催しており、たとえば外科に紹介となってもCancer Boardでの話し合いの結果、内視鏡的治療の方が好ましいと判断された場合にはその後の治療は消化器内科で行うことになります。
リンパ節転移の危険が非常に小さい早期食道癌に対して行われます。手術とは異なり、体の表面には傷がつかず、非常に低侵襲(からだの負担の少ない)の治療です。内視鏡(胃カメラ)で食道癌を含めた粘膜を切除します。切除した食道癌組織が、病理組織検査(顕微鏡で病気の状態を正確に診断すること)で周囲へのリンパ節転移の可能性があると診断された場合には手術の適応となることがあります。
胸部食道癌に対する標準的な手術は「食道亜全摘術」です。この手術では癌の存在する食道と、転移の可能性のあるリンパ節を一緒に体から取り除きます。胸部食道癌は胸部のリンパ節だけでなく、腹部や頸部のリンパ節にも転移を来しやすい癌です。このため腹部と頸部のリンパ節も手術で取り除きます。その後、通常は胃を細長い管状に形成(胃管とよびます)し、頸部までこれを引きあげて残っている食道とつなぎます。このような理由で食道亜全摘術では開胸操作(通常は右側の胸を開きます)、開腹操作(お腹を開きます)および頸部操作(頸部にも傷ができます)が必要となり、体に対する侵襲(ダメージ)が大きい手術となります
この体のダメージを軽減することで、術後の合併症(手術や検査などの後,それらがもとになって起こることがある病気)の頻度を下げたり、早期回復・早期退院を目的に、当科では以前より鏡視下手術を導入しています。鏡視下手術は、小さな傷から胸やお腹に内視鏡を入れ、高精細モニターを見ながら行う手術です。開胸・開腹手術と比較して傷が小さいので痛みが少なく、早期の退院が可能となります。胸の操作は完全に鏡視下で行い、お腹の操作はHALS(hand-assisted laparoscopic surgery)で行います。HALSは7cm程度の小さい傷から執刀医の片手のみをお腹にいれて、もう片方の手で鏡視下に手術を行う方法です。片手をお腹に入れることで、再建に用いる胃を傷つけないように手で優しく操作することができます。
ロボット手術というと、外科医ではなくロボットが自ら手術を行うといったイメージがあるかもしれません。しかしながら、現在の手術ロボットとは「手術支援ロボット」であり、これを操作するのは医師であり、ロボットが外科医の“手”となり、さらに精密な手術を行うためのツールです。
当科で使用している手術支援ロボットは「ダヴィンチ・Xi/X」“da Vinci Xi/X Surgical System”という、インテュイティブサージカル社が製造販売しているロボットです。
※ロボット支援手術の総論は「ロボット支援手術の積極的な推進」の項をご参照ください。
通常の胸腔鏡手術も低侵襲手術です。しかしながら胸腔鏡で用いる鉗子(手術器具)は多関節を持たないため動作制限が存在します。このため、反回神経麻痺の発生率がやや高いという欠点があります。反回神経麻痺がおきると、声を出す声帯の動きが悪くなり声がかすれてしまいます。また食べ物を飲み込む際にむせる場合があり、誤嚥性肺炎を起こすこともあります。
ロボット支援下食道癌手術では、通常の胸腔鏡手術と比較して反回神経麻痺の発生率が低くなり、また合併症全体での発生率も低くなるという報告もあります。
ロボット支援下食道癌手術は通常の胸腔鏡手術よりもさらに患者様の体の負担が少なくなる可能性が高いと考えております。ロボット支援下手術を希望される患者様は是非当科へご連絡ください。
ある程度進行した食道癌の場合には手術前に化学療法(抗がん剤治療)を行ってから手術を行う場合があり、これを術前化学療法と呼びます。以前は手術の後に抗癌剤治療を行っていましたが、臨床試験(JCOG9907試験)の結果、術後よりも術前に抗がん剤治療(5FU+シスプラチン療法)を行った方が、その後の生存率が良好であり、再発率も低いことが証明されたため、現在は術前化学療法が標準治療となっています。また、近年発表された臨床試験(JCOG1109試験)の結果から、5FU+シスプラチン療法に比較して、ドセタキセル+5FU+シスプラチン療法が生存率をさらに改善させることが示され、当科でも適応となる患者さんにはこの術前治療を行っています。また、局所進行食道癌(手術でとりきれるかどうかがぎりぎりな食道癌)患者様については、当科では以前より根治切除率を高め、生存率の向上を目差し、術前放射線化学療法を施行しており、腫瘍の縮小が得られた後に切除術を施行しています。
術前化学療法や術前放射線化学療法を行う場合、治療方針が決まってから手術までに約2ヶ月程度の期間を要します。できるだけ早く手術をしてほしいと考える方が多いと思いますが、このような理由からですので、ご心配されないでください。
また、術後病理診断にて再発率が高いと考えられる食道扁平上皮癌患者様には免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法を施行する場合があります。免疫チェックポイント阻害薬は通常の化学療法とはことなる副作用が出現する場合がありますが、当院では十分な経験をもっている医師が治療に当たり、副作用出現時には、それぞれの分野のスペシャリストに相談し、一緒に治療にあたりますので、安心して治療をお受けいただけます。
化学放射線療法は体に傷のつかない治療です。JCOG0502試験において、StageⅠの食道扁平上皮癌において手術療法に対する根治的化学放射線療法の生存率の非劣性が示され、標準療法の1つとなりました。しかしながら、長期的な生存率をみてみると手術療法に比較して、根治的化学放射線療法は生存率がやや低くなっており、これは放射線治療の晩期障害(治療後数年経ってから現れる副作用)による生存率の低下の可能性があります。このため当科ではStageⅠ食道扁平上皮癌に対してはやはり手術療法を基本として考えています。しかしご高齢で重度の併存症をお持ちの患者様には、十分なリスク評価を行い、手術に耐えられない可能性が高いと判断した場合には化学放射線療法を行う方針としています。
当科は食道癌手術療法に非常に力を注いでおり、福島県の食道癌治療における基幹病院として県内外の患者様に治療を行っております。日本食道学会が定める食道外科専門医を有し、食道外科専門医認定施設(東北地方で8施設のみ)として登録されております。
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